大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和42年(ヨ)482号 判決

申請人 菅原権兵衛

右訴訟代理人弁護士 逸見惣作

同 斎藤忠昭

被申請人 日本国有鉄道

右代表者総裁 磯崎叡

右訴訟代理人弁護士 田中治彦

同 環昌一

同訴訟代理人 山田正利

同 諸星繁

同 岡嶋文治

同 石山陽

同 田村宣雄

同 山口貢

同 鈴木寛

同 今野正已

同 金野肇

同 高橋善次郎

主文

一、申請人が被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。

二、被申請人は申請人に対し昭和四一年八月一六日以降本案判決確定に至るまで毎月二〇日限り金五三、三〇〇円を仮に支払え。

三、申請費用は被申請人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被申請人は本案前の抗弁として、本件解雇は公法上の処分行為というべきであるから本件仮処分申請は行政事件訴訟法第四四条に該当し許されないものであると主張するが、本件(仙台高等裁判所昭和四二年(ネ)第四一号)につき仙台高等裁判所は、国鉄職員の勤務関係の基本は特別権力関係ではなく、私企業における勤務関係と同一の関係であると解するのが相当であり、国鉄が日本国有鉄道法によって行なう免職処分をもって行政庁の公権力の行使たる行政処分ということはできないし、公労法第一八条による解雇も特にこれを別異に解すべき特段の規定も存しないから行政処分ではないというべきであって、本件解雇には行政事件訴訟法第四四条の適用はない旨判旨し、昭和四二年一一月六日本件を当裁判所に差戻す判決をしたのであって、当裁判所は右判断に拘束されるから、被申請人の右主張は理由がないものといわざるをえない。

二、被申請人が日本国有鉄道法にもとづいて鉄道事業等を経営する公共企業体であり、申請人は被申請人に雇傭され、昭和四一年七月当時被申請人の仙台鉄道管理局仙台運転所機関士として勤務していたこと、被申請人は申請人に対し同年八月六日、申請人が同年四月二六日の本件闘争に際し、動労仙台支部委員長として右闘争を指導して実施させ、業務の正常な運営を阻害したとの理由で公労法第一八条により同月一五日付で本件解雇をしたものであることは当事者間に争いがない。

三、そこで以下本件解雇の効力について判断する。

(一)  本件闘争に至る経緯等について

1  動労の組織および運営の概略

申請人が動労の組合員でありかつ動労仙台支部の委員長であることおよび動労が公労協に属していることは当事者間に争いがない。≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

動労は国鉄の動力車に関係ある職務に従事する職員で組織され、本部以下、地方本部(各鉄道管理局およびこれに準ずる範囲ごとに設置)、支部(機関区、電車区、気動車区その他動力に関係ある業務機関ごとに設置)、地方評議会(支社相当地域に設置するもので各地方本部間の統制および連絡調整を行なう協議機関。以下地評という)等の組織をもって成り、議決機関として大会、中央委員会等が、執行機関として中央執行委員会その他の下部機関がある。そして労働紛争が生じて不測の事態が予測されるときは、大会または中央委員会の決議により、中央闘争委員会が組織され、闘争期間中中央執行委員会の闘争に関する権限が委譲され、中央闘争委員会は大会または中央委員会の決議の範囲内で闘争手段を決定し、中央闘争委員長が闘争指令をもって組合員に指令する。組合員は組合機関の決定に従う義務がある。なお、組合規約上の組織ではないが、慣行上、闘争時において具体的な闘争戦術を決定していくため、中央闘争委員会の指令にもとづき戦術委員会(戦術会議)が組織されることがある。昭和四一年当時仙台支部の組織は、議決機関として支部大会、支部委員会があり、執行機関として支部委員長、同副委員長、同書記長の三役ほか五名の執行委員から成る執行委員会が設けられていた。

2  賃金増額の要求

≪証拠省略≫によれば、動労は昭和四〇年第一六回全国大会において昭和四〇年一〇月以降の新賃金要求について大綱を決定し、同年一一月上旬開催の中央委員会において概算金九、〇〇〇円の賃金引き上げを要求することとし、その後公労協との協議調整を経て、同年一一月二七日国鉄当局に対し組合員一人当り金八、七〇〇円の賃金引き上げ要求を行なったこと、国鉄側との団体交渉は同年一二月一〇日以降昭和四一年三月七日まで一〇回にわたって行なわれたが、両者の話し合いは決裂し、動労は昭和四一年三月一〇日公共企業体等労働委員会に調停申請をしたこと、(なおその頃他の公労協所属の各組合も同様調停申請を行なっている。)調停委員会は同年三月一八日から四月一四日まで三回の事情聴取をしたが、基準内賃金の二・三%(金八五〇円)および定期昇給分四・四%(金一、六九七円)の賃上げを回答したに止まったため調停の成立は不可能となり、公共企業体等労働委員会は同年四月二七日仲裁を行なう必要がある旨を決議し、同年五月一九日仲裁委員会により基準内賃金の六・五%の賃金引き上げの裁定がなされ、定期昇給額を含めて結局金三、八一三円の賃金増額となったものであること、以上の事実を認めることができる。

3  本件闘争に至るまでの経過

(1) ≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

公労協と私鉄各組合の上部組織である交運共闘会議は、昭和四一年四月七日開催の会議において、同年四月のいわゆる春闘について前記のような大幅な賃金引き上げを目的として同月二六日および三〇日に私鉄の二四時間ストを中心に、国労、動労、全電通など公労協各組合は半日ストを構え統一ストライキを実施する旨の闘争方針を最終的に確認したが、動労本部は同月八日、中央執行委員会の決定に従い、各地評、地本に対し四月二六日および三〇日の半日ストライキ実施の準備態勢を確立すべき旨を指令し、同月一二日各地本から委員長または組織部長等が出席して開催された全国代表者会議において(仙台地本からは渡辺長太委員長および福田一男副委員長兼組織部長が出席)、四月二六日のストライキについては山陽本線および東京、大阪の環状線とともに仙台地本および盛岡地本を拠点とする東北本線がストライキ拠点として指定された。同月一四日動労本部の発表によれば、右ストライキの目標は、仙台関係では東北本線黒磯、盛岡間につき午前六時から正午まで列車の運行を完全に停止させるというものであった(この事実は当事者間に争いがない)。

(2) ≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(イ) 準備態勢の指示

仙台地本にはその下に、仙台、長町、小牛田、福島、郡山の五支部が所属していたところ、右支部のうちいずれの支部が本件闘争のストライキ拠点とされるか等の具体的指定については本部から派遣される中央闘争委員(以下派遣中闘という)が行ない、かつ闘争についての最高の指揮権は右派遣中闘に委ねられるべきこととされ、その間四月二〇日前において、仙台地本は所属各支部に闘争の準備態勢を指示していた。

なお本件闘争に先立って行なわれた各組合員の一票投票の結果、仙台地本の本件闘争支持率は約八二%(動労の全国平均支持率は七九%)、仙台支部は八五%の高率を示していた。そして本件闘争に際し、動労は闘争方式として、昭和四〇年の闘争時から行なわれたいわゆる自主参加方式を採用し、闘争参加については各組合員の自主性を尊重する方針を宣明していた。

(ロ) 拡大支部代表者会議の開催

四月一四、一五の両日、仙台地本執行委員、仙台地本各支部委員長、職種別分科会の代表者等が集まって右会議が開催され、申請人も仙台支部委員長として右会議に出席した。右会議は組織規約上の権限を有しないが、全体の意思統一をはかり地本の指令を伝達する機構として設けられているものである。右時点では、本件闘争の実施拠点支部およびストライキ実施時間等は具体的に決定されていない段階であったため、席上闘争の準備態勢を作ることの確認と、仙台地本執行委員会で立案計画した内容が指示され、闘争に際しては列車運行を阻止するため列車乗務員を収容する等の処置がとられるべきこととされた。

右会議の後、仙台地本執行委員長および仙台支部委員長申請人名義で各組合員およびその家族に対し「四月二六日半日ストライキを実施するに当り、組合員並びに御家族各位に要請します」と題する書面が頒布され、その中で各組合員はろう城集会、臨時乗務員集会、四月二五日朝の集会等に参加すること、組合からの動員要請に応ずること等の協力要請がなされた。

(ハ) 派遣中闘の来仙、戦術委員会の設置

四月二〇日、派遣中闘として本部書記次長木村忠一が来仙し、同日仙台、盛岡、秋田各地本の代表者とともに東北ブロック戦術会議がもたれ、派遣中闘は闘争拠点として東北本線につき盛岡、福島間の区間を指定し、なお同日のうち最終的に本部と打ち合わせのうえ、盛岡地本関係は盛岡、一ノ関の各支部を、仙台地本関係は仙台、長町、福島の各支部をそれぞれ闘争拠点支部として指定し、仙台地本は同地本関係の三支部に対し準備指令どおり臨時乗務員会、職場集会等を開催すべき旨指示した。

また右派遣中闘来仙後直ちに、本件闘争についての具体的な闘争戦術を決定、指示していくために、右派遣中闘、東北地評議長加藤康男、仙台地本委員長渡辺長太、同副委員長(組織部長)福田一男の四名からなる戦術委員会が組織された。

(ニ) ビラの掲示

四月二〇日、仙台支部委員長である申請人の名で、仙台支部組合員に対し本件闘争への参加を訴える、団結して勝ち抜こうという内容のビラが掲示された。

(ホ) 臨時乗務員会の開催

仙台支部において四月二一、二二の両日、列車乗務員に対する本件闘争参加への呼びかけを目的として行なわれた右集会(出席乗務員の都合上二日間にわたって開催)の席上、乗務員会会長丹野要治、前記仙台地本委員長、同副委員長等が春闘状勢の報告説明および本件闘争に対する協力要請を趣旨とする挨拶を行ない、最後に仙台支部委員長である申請人が、右闘争参加への決意を表明し協力を要請する挨拶を行なった。

(ヘ) 支部執行委員会の開催

四月二三日、仙台支部委員長である申請人主宰のもとに同支部執行委員会が開かれ(仙台地本副員長福田一男も出席)、二一、二二の両日開催された前記臨時乗務員会における本件闘争への盛上りの状況を確認するとともに、本件闘争の実施方法につき執行委員会の意思統一が行なわれた。

(ト) 職場集会の開催

四月二三、二四の両日、仙台支部における列車乗務員以外の地上勤務者を主たる参加者として右集会がもたれ、仙台地本副委員長福田一男等の情勢報告、本件闘争への協力要請の挨拶につづき、最後に申請人が右闘争参加への決意を表明し、協力を要請する挨拶を行なった。

(チ) 決起集会の開催

本件闘争前日である四月二五日午前七時三〇分から勤務時間前の約四〇分間仙台運転所蒸気庫正門附近広場でストライキ突入の総決起集会が開催された。右集会は派遣中闘の指示にもとづいて仙台地本が計画し、各支部を包含する拠点地区ごとに行なわれたものである。右席上、派遣中闘木村忠一、仙台地本委員長渡辺長太、同副委員長福田一男等の協力要請の挨拶につづき、最後に申請人が同様の挨拶を行なった。

以上の事実を認めることができる。

(二)  本件闘争の実施およびその影響

1  ストライキ実施前の状況

(1) 国鉄側の対策

≪証拠省略≫によれば、国鉄(仙台鉄道管理局)側は、昭和四一年四月二〇日頃、同月二六日に予定されている本件闘争拠点に動労仙台支部等が指定されたことを知り、右局内に対策本部を設置するとともに、動労仙台支部に対し闘争の中止を呼びかけあるいは当日勤務する列車乗務員に対し業務命令書を交付するなどし、また福島、長町、仙台各機関区、陸石管理所の列車乗務員の指導、訓練、教育等に携わる指導機関士二五、六名に対し出張命令を発して招集し、四月二五日仙台において打ち合せ会議を開催して、出席した一五、六名の指導機関士を右会議終了後仙台市内の旅館に待機させ、列車乗務の代替要員として確保するなどして、ストライキが実施された場合にも少なくとも主要な列車の運行を確保する対策を講じていたことが認められる。

(2) 申請人らの年次有給休暇(以下年休という)の申請

≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

申請人は昭和四一年四月二四日午後、同月二五、二六両日の年休を申請したところ、国鉄側は同日の晩、右休暇申請を拒否する旨申請人に告げた。国鉄仙台運転所における年休申請は通常の日においても約一〇ないし二〇名の申込があるが、同月二五日の年休は約二〇名が申請し、仙台運転所側は右のうち約四名を除くほか要員不足を理由にその請求を拒否したところ、右拒否をうけた者のうち申請人および動労仙台支部青年部長高橋正一、同副委員長植杉光時の三名は右二五日当日結局出勤しなかった。そのため申請人の乗務すべき当日一二時頃発の列車、右高橋の乗務すべき当日一七時三〇分頃発の列車および右植杉の乗務すべき当日二二時二五分発の列車にはそれぞれ予備要員あるいは代替要員が乗務して運行した(右二二時二五分発の列車は三六分遅延)。

なおそのほか四月二六日午前零時五五分発の列車に乗務予定の横田機関士が病気のため乗務不能となり、予備要員としてあてられていた乗務員会書記次長熊耳久雄機関士が乗務すべきこととなったが、同人は疲労を理由に欠勤したため同列車は運行を休止した。

(3) 組合側による列車乗務員および指導機関士の収容活動

≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

前記認定のとおり、本件闘争に先立ち拡大支部代表者会議において本件闘争の際列車乗務員を収容する措置がとられるべきことが決定されていたが、仙台地本は四月二一日頃右収容の場所として仙台市内梅林旅館を確保していたところ、四月二五日午後から、スライキ実施時間帯およびその前後に乗務すべき組合員は各自右旅館に集合し、また組合側の説得に応じて集合した組合員もあった。もっとも右の集合行為自体は四月二五日および後記認定のストライキ実施前である四月二六日午前三時前の列車運行業務に支障を来すものではなかった。

一方四月二五日朝、動労福島支部から仙台支部内の闘争本部に対し、前記国鉄側招集の会議に出張する福島機関区の指導機関士五名が午前八時頃発の列車で仙台に向う旨の連絡があったため、前記戦術委員会において右機関士らを説得して収容する方針を決定し、午前九時頃東北地評議長加藤康男、仙台地本副委員長福田一男ら約一〇名が福島方面に向い途中岩沼駅で右機関士らに出会いストライキ参加を説得して前記旅館に収容した。また同日同様仙台に向う予定の小牛田機関区の指導機関士のうち四名についても、木村中闘の指示により組合員らがストライキ参加を説得し前記旅館に収容した。

2  ストライキの実施とその影響

≪証拠省略≫を総合すれば次の事実を認めることができる。

前記認定のとおり、当初動労側の計画によれば、四月二六日に実施するストライキは午前六時から正午まで列車運行を完全に停止させるというものであったが、前記戦術委員会では四月二五日までの国鉄側の対策など諸般の状勢を検討し、右ストライキを有効ならしめるためにはその実施時間を三時間繰上げて四月二六日午前三時からとすることに決定し、右時間からストライキに突入したため、右時間以降の列車乗務に従事すべき組合員の全部およびその他組合員の多くはその職務を放棄して出勤せず、右状態は動労のスト中止指令により右ストライキが終結した同日午前八時三〇分過ぎまで継続した。

前記ストライキ実施時間中、国鉄側は指導機関士等代替要員をあてて約八本の列車運行を確保したものの、次のとおり列車の運休および遅延が生じ、平常の列車運行状態が回復したのは四月二七日午後であった。

(運転を休止した旅客列車一〇本とその運休区間)

列車番号二四一(仙台・利府)、一二四二(利府・仙台、以上二本は折り返し運転)、四三(仙台・青森)、八二一D(仙台・山形)、八二八D(山形・仙台、以上二本は折り返し運転)、五二二M(仙台・大河原)、一五二一M(大河原・仙台、以上二本は折り返し運転)、一一〇六M(仙台・福島)、一四〇(仙台・黒磯)、六八六三(長町・仙台)

(遅延した旅客列車一一本とその遅延時分)

列車番号九二三九(八六分)、二〇四(七三分)、四(はくつる)(二七分)、六M(第一ひばり)(二七分)、一二九(一三六分)、九一二D(あがの一号)(二三六分)、一一一D(くりこま一号 さんりく むろね一号)(一四九分)、一〇五(北星)(八四分)、二〇九(第四十和田)(一〇〇分)、一二六(一〇九分)、一〇五M(きたかみ)(一一分)

3  申請人の行動

≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

本件闘争当日およびその前日から、仙台地本副委員長福田一男および専従執行委員らの指示、指揮により仙台駅構内でデモ、集会等によって組合員の気勢を示す行動が行なわれたが、申請人は四月二五日の前記決起集会終了後同日午前一〇時頃仙台支部前広場で組合員らの先頭に立ってデモ行進をしたほか、四月二六日ストライキ終結に至るまで仙台駅構内においてときおり行なわれたデモの際その先頭に立って行動していた。

また申請人は四月二六日六時四〇分頃、前記福田および仙台支部副委員長植杉光時らとともに、仙台駅三番ホームにおいて第二〇四列車(上り第四十和田)に乗務していた安彦指導機関士および機関助士に対し、「安彦君、明日のことを考えてやれよ。後で泣くようになるぞ。スト破りはするな。降りろ、降りろ。」等の言葉を浴びせ、こもごもその乗務を放棄するよう働きかけたが、同列車は同日六時五〇分発車した。

(三)  本件闘争と公労法第一七条一項該当性について

申請人は、そもそも公共企業体等の職員および組合に対し争議行為を全面かつ一律に禁止する公労法第一七条一項の規定は、争議権を含む勤労者の団体行動権を保障している憲法第二八条に違反する旨主張するが、公労法の右規定が憲法の右規定に違反するものでないことは、すでに最高裁判所(昭和三九年(あ)第二九六号)昭和四一年一〇月二六日大法廷判決の示すところであり、当裁判所も右判決と同一の見解であるので、申請人の右主張は採用のかぎりでない。

そして前記認定のとおり、本件闘争の行なわれた昭和四一年四月二六日午前三時から同日午前八時三〇分過ぎまで動労仙台支部の列車乗務員ら組合員は一せいにその職務を放棄し、そのため前記認定のごとくその間列車の運行を休止もしくは遅延せしめたものであって、右の行為はその態様および結果からみて公労法第一七条一項の禁止する争議行為である同盟罷業に該当するものといわねばならない。

もっとも前記認定事実によれば、四月二六日午前三時前にも組合員によるデモ、集会および二、三の組合員によって年休申請による列車乗務拒否の行為が行なわれていたが、右乗務拒否は単に組合員の個々的な行動にとどまり、いまだ集団としての争議行為を組成するものとは考えられず、またデモ等の行動もそれ自体が業務の正常な運営を阻害した点についての疎明はないから、前記説示のとおり、本件闘争中公労法第一七条一項違反の争議行為としての評価を受けるのは、前記同盟罷業に限定するのが相当である。

(四)  申請人の行為と公労法第一七条一項後段該当性について

1  本件闘争と申請人の役割

前記認定の事実によれば、本件闘争は昭和四一年における公労協の賃金引き上げを目的とするいわゆる春闘の一環として企画されたストライキであるが、その実施の日時、拠点、戦術等大綱の決定は公労協および動労本部においてなされ、動労各支部は本部から発出された指令にもとづき全体としての春闘の態勢に組み込まれ、かつ個々の指令の消化過程においても、具体的決定は本部から派遣された木村中闘および前記戦術委員会あるいは仙台地本段階での決定が大きな比重を占めていたものである。すなわち具体的な支部拠点の決定、闘争の方法、実施時間の決定等枢要な事項はすべて右の段階で決定され、仙台支部委員長としての申請人は右の諸決定には全く関与しないか、また関与したとしてもその程度、重要性はさほど大きいものではなかったと推認される。

なるほど、≪証拠省略≫によれば、申請人は昭和三二年、同三六年、同三九年にそれぞれ動労仙台支部委員長に選出され、昭和四一年当時同支部委員長として多年の経験を有し、組合員の信望も厚く、組合員に対する大きな指導、影響力をもっていたことが認められ、前記認定のとおり、仙台支部における本件闘争の支持率が極めて高いものであったことも、申請人の右のような日常の統率力が与って力があり、ひいてそのことが仙台支部が本件闘争の拠点として指定される一因ともなり、また本件闘争に際しても本部あるいは地本等の指令を消化することを容易ならしめたであろうことは推認するに難くない。しかし右の事実をもってしても、さきに認定したような本件闘争の実施過程に徴して、右闘争において申請人の果した役割がさほどに重要な意味を有したものと評価することはできないものといわねばならない。

ところで、被申請人は本件解雇理由として申請人の前記争議行為の実行責任を問うものではないが(したがってその挙示する申請人の具体的行動のうち、例えば申請人が四月二五日業務を放棄して就労しなかったことおよびこれに対し申請人が反論して主張する同月二五、二六日の年休申請の効力発生の有無等については、あえて判断する必要をみない)、その主張に照らせば、被申請人は、申請人が動労仙台支部委員長として本件闘争の全般にわたりその最高指導者として右闘争を指導し実施させたとしていわゆる幹部責任を問うもののごとくである。

しかしながら、いうまでもなくいわゆる幹部責任の意味するところは多様であるが、本件において申請人の行為につき、公労法第一七条一項後段の共謀、あおりもしくはそそのかし行為のほかに、とくに幹部としての責任を問われるべき合理的理由はなく、申請人の幹部としての地位も右条項の要件を判断するに際し考慮されるべき一要素たる以上の意味はないものと解すべきである。

そこで以下申請人の行為について被申請人の主張する公労法第一七条一項後段の該当性の有無について検討する。

2  共謀行為について

公労法第一七条一項後段にいう共謀とは、二人以上の職員が公共企業体等の業務の正常な運営を阻害する意思でその実行につき共通の意思決定をするために謀議することをいうものと解すべきところ、前記認定事実によれば、申請人は(イ)、本件闘争前の昭和四一年四月一四、一五の両日拡大支部代表者会議に出席し、右時点ではいまだ拠点支部の決定はなかったものの、拠点支部が決定された場合の闘争方法につき仙台地本の立案計画した内容につき説明を受け、意思統一に参与し、(右会議の後直ちに申請人名義で仙台支部各組合員に対し本件闘争の際における具体的方法を指示する文書を頒布している。)(ロ)、四月二三日仙台支部執行委員会を開催して主宰し、右委員会では本件闘争の実施方法につき同支部執行委員間の意思統一がなされたものであって、右各行為はいずれも前記法条所定の共謀行為に該当する。

3  そそのかしもしくはあおり行為について

公労法第一七条一項後段にいうそそのかし行為とは、同条前段の争議行為を実行させる目的をもって職員に対しその行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすること、あおり行為とは右の目的をもって職員に対しその行為を実行する決意を生じさせ、またはすでに生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えることを意味すると解すべきところ、前記認定事実によれば申請人は、(イ)昭和四一年四月二〇日申請人の名をもって動労仙台支部組合員に対し本件闘争への参加を訴えるビラを掲示し、(ロ)同月二一、二二の両日開催された仙台支部臨時乗務委員会および同月二三、二四日の両日開催された職場集会において、列車乗務員あるいは一般組合員に対し、本件闘争参加への決意を表明し、協力を要請する挨拶をし、(ハ)本件闘争当日の同月二六日午前六時四〇分頃、仙台駅三番ホームで第二〇四列車に乗務中の安彦機関士および機関助士に対し、「安彦君、明日のことを考えてやれよ。後で泣くようになるぞ。スト破りはするな。降りろ、降りろ。」等と申し向けて乗務を放棄するよう働きかけたものであって、右の行為はいずれも、前記認定の申請人の地位、影響力に鑑みると、前記法条所定のそそのかしもしくはあおり行為に該当する。

4  以上の次第であって、申請人は公労法第一七条一項後段所定に該当する行為をしたものといわねばならない。

(五)  本件解雇の効力について

1  本件解雇は、申請人が公労法第一七条一項後段に違背する行為をしたことを理由に同法第一八条の規定を適用してなされた処分であるところ、申請人は、同法第一八条は元来集団行動としての争議行為の責任を特定個人に問うこととなり、勤労者の団結権を侵害するから憲法第二八条に違反する旨を主張する。

よって判断するに、公労法第一七条一項は公共企業体等の職員に対し、その業務の有する公共性の見地から一定の争議行為を禁止するとともに、これらの禁止行為を共謀しそそのかしもしくはあおる行為を禁止するものであるところ、一方公労法第一八条は右禁止規定の実効性を担保するため右の禁止行為に出た者に対しその者を当該企業秩序から排除することを目的として解雇という不利益処分を課しているものと解される。そこでなるほど申請人の主張するように、争議行為は集団行動として行なわれるものであるから、右争議行為自体の責任を個人的に追及するならばそれは不当な問責とも考えられ、また勤労者の団結権に対する侵害を招来するおそれのあることも否定しえないであろう。

しかしながら、いかなる争議行為がその禁止規定にふれるかは別としても、公労法第一七条が右争議行為自体を禁止し、争議権そのものが一定の制限を受けているものである以上、禁止争議行為に対する制裁としての解雇処分によって、禁止争議行為に出た個人の責任を追及し、その結果争議権発動の基底をなす団結権に影響するところがあるとしても、右法全体の趣旨からはやむを得ないものといわざるをえない。もとより、争議行為禁止違反に対して課される不利益は、必要な限度をこえないよう十分な配慮がなされなければならない(前掲最高裁判所昭和四一年一〇月二六日大法廷判決)のであり、また解雇するかどうか、その他どのような措置をするかは、職員のした違法行為の態様、程度に応じ、合理的な裁量にもとづかなければならないと解される(最高裁判所(昭和三八年(オ)第一〇九八号)昭和四三年一二月二四日判決)。このように理解するかぎり、公労法第一八条を直ちに憲法第二八条に違反するものとは解しえず、申請人の右主張は採用できない。

2  そこで本件解雇処分の適否につき判断するに、さきに本件闘争における申請人の役割について検討したとおり、本件闘争全体の過程において申請人の果した役割はさほど大きいものではなく、重要な諸決定についてはほとんど関与していないといってよく、申請人の仙台支部組合員に対する影響力が大きかったことを考慮に入れても右の評価を左右するものではない。また前記認定の事実によれば、本件闘争における申請人の行為中、共謀の点についても、右謀議において申請人の果した役割は、派遣中闘あるいは仙台地本側から提示された闘争の実施方法の基本的な線を確認し、仙台支部内における意思を統一していく以上に積極的な意味をもつものとは解しえず、なお申請人の前記そそのかし、あおり行為は、支部委員長としての職責遂行上必要な域をことさら逸脱したものであるとも考えられない。

≪証拠省略≫によれば、本件闘争に対し国鉄側においてなした解雇処分は、派遣中闘木村忠一、仙台地本委員長渡辺長太、同副委員長兼組織部長福田一男等動労全体で九名におよんだが、いずれもその処分対象者は動労本部あるいは地本の責任者であって、支部責任者に対する解雇処分は申請人に対してのみであることが認められる。

以上のような申請人の本件闘争において果した役割、申請人の行為の違法性の程度、態様、問責の均衡等の諸点から考えると、被申請人が申請人に対し公労法第一八条による解雇処分をもって臨んだことは、右解雇権の合理的な範囲をこえ、権利の濫用といわざるをえないから、本件解雇は右法条の適用を誤った無効な処分であるといわねばならない。

3  してみると、申請人と被申請人間における雇傭関係はなお存続し、申請人は被申請人に対し雇傭契約上の権利を有するものといわねばならない。本件解雇処分によって右雇傭関係が終了したとして、被申請人が申請人の就労を拒否し、そのために申請人が就労できないでいることおよび申請人が本件解雇処分当時毎月金五三、〇〇〇円の給与を支給されていたことは当事者間に争いがなく、申請人本人尋問の結果によれば、右給与の支給日は毎月二〇日であることが認められるから、申請人は被申請人に対し、本件解雇の翌日である昭和四一年八月一六日以降毎月二〇日金五三、三〇〇円の賃金請求権を有するものといわねばならない。

四、仮処分の必要性

≪証拠省略≫によれば、申請人は妻およびその母親と二子(うち一名は大学在学中)を抱え、主として右給与によって生計を支えていることが認められるから、右賃金の支給を受けられないときは、申請人は生活に困窮して著しい損害をこうむるおそれがあるものと認めるのが相当である。

もっとも≪証拠省略≫によれば、申請人は本件解雇後動労犠牲者救済規則の適用をうけ、組合から一時見舞金三〇〇、〇〇〇円のほか、毎月給与相当額(昭和四五年八月現在、申請人の本件解雇後の昇給等をも勘案して右相当額金八一、〇〇〇円)の支給をうけ、また国鉄共済組合から退職年金(昭和四一年九月以降約金一七三、〇〇〇円、昭和四五年四月から約金二四八、〇〇〇円)の支給をうけていることが認められる。

しかし右各証拠によれば、犠牲者救済規則による給与相当額の支給は、組合が各組合員の醵出において被解雇組合員を応急的に救援する措置であって、解雇無効の本案判決が確定し復職した場合、申請人において返済を要するものであるから、右救済措置により申請人が本件解雇期間中の生計を支えているからといって本件仮処分の必要性がないものとはいえず、また前記一時見舞金あるいは退職年金等の支給を受けているからといっても、その支給額に照らし、到底申請人の生計を維持するに足る額とは考えられないから、本件仮処分の必要性がないものとはいえないのである。

五、以上の次第で、申請人の本件仮処分申請は、被保全権利および保全の必要性について疎明があるものというべきであるから正当としてこれを認容することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤幸太郎 裁判官 若林昌俊 大内俊身)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例